大判例

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東京地方裁判所 昭和29年(ワ)7680号 判決

原告 根本松男

被告 日興相互株式会社

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告は、「被告は、原告が昭和二十八年六月二十三日被告会社の監査役を辞任した旨の変更登記手続をせよ。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、「原告は、被告会社設立の当初からその監査役であつたが、昭和二十八年六月二十八日これを辞任した。しかるに、被告会社は未だ右辞任による変更登記の手続をしないので、その手続をすることを求めるため本訴請求に及んだ。」と述べた。

被告会社代表者は主文第一項同旨の判決を求め、「原告主張の請求原因事実はすべて認める。」と述べた。

三、理  由

原告が昭和二十八年六月二十三日被告会社の監査役を辞任したこと、ならびに被告会社が未だ右辞任による変更登記の手続をしていないことについては当事者間争がない。しかしながら、会社の商業登記に関しては不動産登記におけるように私法上の権利関係に基く登記権利者に対する意味での登記義務者なるものがなく、商法会社編においてその規定する登記を為すことを怠つた場合に一定の者に制裁を科する旨規定し(第四百九十八条第一項第一号)これによつてその登記を為すべきことを強制していることをかんがえれば、会社の商業登記を為すべき義務は、本来国家に対するものであつて、同登記を求める私法上の権利が発生する余地がない筈のものと解すべきである。もつとも、合名会社、合資会社におけるように社員相互の契約関係が法人格形成の基礎となり、登記によりその関係が表示される場合には、登記が右契約関係に基く私法上の権利義務に影響を及ぼすこともあり得るので(例えば同法第九十三条に規定する場合)商業登記に関しても別に私法上の権利が発生する余地があると解し得るけれども、株式会社についてはこのようなことはなく、取締役又は監査役に関する商業登記の記載は会社の機関としての法律関係の表示に過ぎず、登記の変更によつてはその個人の会社又は第三者に対する私法上の権利関係に消長を来たさず、即ち辞任した監査役が登記簿上依然として監査役として表示されていても、そのことによつて何等の不利益を蒙るものではないので辞任した監査役は、会社に対し、国家に対する義務に属する商業登記の変更登記手続をなすべきことを求める権利を有しないものといわなければならない。よつて原告の本訴請求を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 畔上英治 岡田辰雄 高林克巳)

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